2009年8月29日土曜日

ウマノスズクサ


ウマノスズクサ Aristolochia debilis Siebold et Zucc.



ウマノスズクサ (馬の鈴草)
学名 : Aristolochia debilis Siebold et Zucc.

1) 分 類

   ①クロンキスト体系による分類

      モクレン(被子植物)門 Magnoliophyta
      モクレン(双子葉)綱 Magnoliopsida
      モクレン亜綱 Magnoliidae
      ウマノスズクサ目 Aristolochiales
      ウマノスズクサ科 Aristolochiaceae
      ウマノスズクサ属 Arstolochia

*科名は、Arthur Cronquist, ”The Evolution and Classification of Flowering Plants. Second Edition” (1981), The New York Botanical Garden, New York. に基づいています。
*和名は、朝日新聞社編 週刊朝日百科「植物の世界」創刊号別冊付録、「植物用語集+植物分類表」(1994)の「植物分類表」(清水建美監修)p.4 - 6に基づきました。

    ②新エングラー体系による分類

      被子植物門 Angiospermae
      双子葉植物綱 Dicotyledoneae
      古生花被植物亜綱 Archichlamydeae
      ウマノスズクサ目 Aristolochiales
      ウマノスズクサ科 Aristolochiaceae
      ウマノスズクサ属 Aristolochia

*科名は、H. Melchior and E. Werdermann (eds.), ”A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien. 2Bd., 12 Aufl.” (1964) Verlag Gebrüder Borntraeger, Berlin
*和名は、朝日新聞社編 週刊朝日百科「植物の世界」創刊号別冊付録、「植物用語集+植物分類表」(1994)の「植物分類表」(清水建美監修)p.4 - 6に基づきました。

2) 和名・学名の由来

 和名のウマノスズクサ(馬の鈴草)は、中国語の名の馬兜鈴(ばとうれい)が由来で、
6に裂開した球形の実の裂片が垂れ下がっている様子が馬の首に掛ける鈴に似ていることから名付けられたらしい。
  学名の Aristolochia は、「最良 aristos」+「出産 locheia」で、曲がった花の形が胎児を、基部の膨らみが子宮を思わせるため、出産を助ける力をもつと考えられたことによるようだ。種小名の debilis は「弱小な、軟弱な」の意味。

3) 特 徴

 川の土手や畑、林縁などに生える多年生のつる植物。全体に無毛で粉白をおび、茎は細く丈夫でよく分岐し長さ1.5mに達し、ほかの草や木にからみつく。葉は互生し、長さ4㎝から7㎝の三角状卵形。基部は心形で両側が耳状にはりだす。7月~9月頃、葉腋にサキソフォンに似た形の紫緑色の花を1個ずつつける。花柄は子房を含めて2~3㎝、花被は基部が球形にふくれ、細長い筒がつづき、ゆるく湾曲し、先端は斜めに切り落としたような形で、やや反り返る。舷部は三角形で先は尖る。長さ3㎝内外、下部内面に毛があり6花柱が合して多肉の短柱となり、周囲に花糸のない葯がつく。蒴果はやや細長い球形で長さ1.5㎝、6裂し、花柄の先端も6裂してぶらさがる。
 
4) 分 布

温帯~暖帯 : 本州(関東地方以西) 四国 九州 沖縄 中国

5)掲載図鑑とページ番号

 平凡社 「日本の野生植物草本 2 」p. 103
 保育社 「原色日本植物図鑑 草本Ⅱ」p. 319, f. 141; 2
 至文堂 「日本植物誌」p.606

6) 文献情報(原記載文献など)

Abh. Akad. Muench. 4(3): 197 (1846); Duch. in DC., Prodr. 15(1): 483 (1864); Miq. in A. M. B. L.-B. 2: 135 (1865); Franch. & Sav., EPJ 1: 420 (1875); Forbes & Hemsl. in J. L. S. B. 26: 361 (1891); Rehder & E.H.Wilson in Sarg., Pl. Wilson. 3: 323 (1921); Hand.-Mazz., Symb. Sin. 7(2): 247 (1931); O.C.Schmidt in Engl. & Prantl, Nat. Pfl.-fam. ed. 2, 16B: 241 (1935); Nemoto, Fl. Jap. Suppl.: 157 (1936); Ohwi, Fl. Jap.: 456 (1953); S.M.Hwang in H.S.Kiu & Y.R.Ling, FRPS 24: 235, t. 56, f. 5-9 (1988); J.S.Ma in A. P. S. 27: 340 (1989).

7) 参考文献

 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList),
 http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html(2009年8月29日).
北村四郎・村田源共著 「原色日本植物図鑑・草本編Ⅱ」 保育社(1992)p.319 PLATE68
林弥栄監修 「山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花」 山と渓谷社(2003)p.364
朝日新聞社編 週刊朝日百科「植物の世界」創刊号別冊付録
  「植物用語集+植物分類表」(1994)の「植物分類表」(清水建美監修)p.4 – 6

8)南伊予における生育地

    1. 愛媛県伊予市宮下字本谷   10 . Aug . 2009
       33°46′29″N / 132°45′42″E  3次メッシュコード: 5032-5620
       国土地理院  1/50,000 松山南部  1/25,000 松山南部

9)ウマノスズクサ属(Arstolochia )の植物

     マルバウマノスズクサ Aristolochia contorta Bunge
         分布・生育地: 本州(山形~島根県の日本海側) 林縁  花期: 7~8月
         環境省レッドデータブック: 絶滅危惧IB類(EN)

     ウマノスズクサ Aristolochia debilis Siebold et Zucc.
         分布・生育地: 本州(関東以西)~九州 草地や林縁  花期: 6~8月
         環境省レッドデータブック: 記載なし

     オオバウマノスズクサ Aristolochia kaempferi Willd.
         分布・生育地: 本州(関東以西)~九州 林縁  花期: 5月
         環境省レッドデータブック: 記載なし

     タンザワウマノスズクサ Aristolochia kaempferi Willd. var. tanzawana Kigawa
         分布・生育地: 本州(関東~東海地方)  山地の林縁  花期: 5~6月
         環境省レッドデータブック: 記載なし

     リュウキュウウマノスズクサ Aristolochia liukiuensis Hatus.
         分布・生育地: 奄美大島~沖縄 林縁  花期: 12月~4月?
         環境省レッドデータブック: 記載なし

     アリマウマノスズクサ Aristolochia shimadae Hayata
         分布・生育地: 本州(近畿以西)~沖縄 林縁  花期: 5~6月(沖縄は12~3月)
         環境省レッドデータブック: 記載なし

     コウシュンウマノスズクサ Aristolochia zollingeriana Miq.
         分布・生育地: 沖縄県(宮古諸島)  林縁  花期: 7~9月?
         環境省レッドデータブック: 絶滅危惧II類(VU)




雑 記 : ジャコウアゲハの食草

 ジャコウアゲハ(麝香揚羽:Byasa alcinous alcinous (Klug, 1836)〔Aristlochia debilis Sieb. et Zucc.〕)は南方系の蝶で、幼虫はウマノスズクサ属(Aristolochia sp.)の植物のみを食草としている。繁殖力が強く、また食草を良く食べるため、食草がなくなると共食いをすることもあるらしい。
 ジャコウアゲハの食草であるウマノスズクサ(Aristolochia debilis Siebold et Zucc.)には、フェナンスレン骨格にニトロ基を有する特異な構造もつ植物アルカロイドの一種であるアリストロキア酸(Aristolochic acid)とスギ科の落葉樹セコイアにも含まれるありふれたイノシトール系の化合物セコイトール(Sequoyitol)が含まれいる。
 アリストロキア酸は、ウマノスズクサ属(Aristolochia sp.)の植物には広く含まれる毒素で、人間にとっては腎機能障害を起こす有害な成分で発ガン性があるといわれているが、ウマノスズクサはこの毒素を作ることで昆虫による食害から身を守っている。(植物の多くは、何らかの毒素を生産している。)
 ジャコウアゲハはこの毒素に対する耐性を獲得してうまく利用し、メスは食草中に含まれるアリストロキア酸とセコイトールという二つの物質が混在することを前肢にある多数の針のような毛で、葉の表面に傷をつけて確認してから産卵する。そして、産んだ卵にアリストロキア酸を含むクリームを塗布して外敵から守り、孵化した幼虫は、この卵の殻を食べて効率的に毒素で武装する。幼虫はウマノスズクサをせっせと食べてアリストロキア酸を体内に蓄積し、その毒素で小鳥などの天敵から身を守っているという。




       
 アリストロキア酸Ⅰの化学構造式         セコイトールの化学構造式




フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ジャコウアゲハ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%82%A2%E3%82%B2%E3%83%8F

黒蝶の戦略 ジャコウアゲハの超能力
http://members.jcom.home.ne.jp/kisono/jakouageha2/jakouageha2.htm

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 アリストロキア酸
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%AD%E3%82%A2%E9%85%B8
 



 
雑 記 :ホソオアゲハとジャコウアゲハと環境破壊

 ホソオアゲハ(別名:ホソオチョウ 学名:Sericinus montela (Bremer et Grey, 1852))は、朝鮮半島~中国大陸、沿海州に分布する種で、このチョウはもともと日本には分布しておらず、人為的理由(人間の手によって意図的に行われる放蝶)で分布を広げているのがホソオアゲハである。
 国内では、1978年7月18日に東京都日野市百草園で初めて見つかり、翌年には八王子市で生息が確認された。その後、東京都から山梨県にかけての河川敷で局地的に多産していることが判った。1993年には京都府でも発見され、その後、岐阜県~福岡県にいたる地域で、局地的に記録されており、一部では現在も発生を続けている。1990年代前半まではホソオチョウの全盛期で、一時は多摩川周辺を中心に埼玉県所沢市などで数百匹が見られるといった状態になったという。現在では衰退しているらしいが、京都府周辺はかつての山梨県と同様にかなりの個体数が見られるらしい。
 ホソオチョウの分布が確実なのは山梨県東八代郡中道町周辺の、笛吹川のごく一部と栃木県や茨城県、埼玉県、神奈川県、京都府周辺、(滋賀県、大阪府、兵庫県)さらには宮城県、群馬県、長野県、静岡県、岡山県、山口県、徳島県、福岡県でも生息が確認されている。
 本種はもともと飛翔力の乏しい種類で特にメスは食草であるウマノスズクサの群落からあまり離れることがない。このような種が各地に局所的分布(数ヶ所の狭い範囲の発生)を拡大している背景には意図的な放蝶行為が繰り返されていると思われる。最初、馬鹿な蝶の愛好家が、韓国から違法に持ち込んで飼育したものを放蝶し、更に、その子孫が馬鹿な蝶の愛好家によって捕獲、飼育され、各地で人為的に放蝶されたものと考えられる。何故ゆえにこのようなことをするのであろうか。 「ホソオアゲハは、どことなくはかなげで弱々しくゆったりとした飛び方をし、その姿・色・模様といい何とも優雅な蝶なので、数百匹が飛んでいる様を見たい。」等と放蝶して、野外への定着を試みる馬鹿な蝶の愛好家がいるのだろうか。だが、このような生態系を完全に無視した放蝶は最悪の行為だ。自己満足のために他人の権利を無視し、傷つけるようなものである。
 ホソオアゲハの幼虫はマルバウマノスズクサとウマノスズクサを基本的な食草として利用しており、在来種のジャコウアゲハとの競合が懸念される。オオバウマノスズクサがある場合にはジャコウアゲハはオオバウマノスズクサを利用するが、ウマノスズクサしかない地域では、両者が同じ資源を利用することになり、競合が起こると考えられ、ジャコウアゲハの絶滅という事態を招く可能性もある。また、最近では神奈川県でナガサキアゲハ・アカボシゴマダラという場違いなチョウ(南方系のチョウ)が信じられない勢いで増えているらしい。ナガサキアゲハは自然に北上して棲み付いたようだが、アカボシゴマダラはホソオチョウと同じく人為的に持ち込まれたものだろうと考えられる。外国産のカブトムシやクワガタ、ブラック・バスやブルーギルについても同じで、在来種を絶滅に追いやっていることは否定できない。
 全く関係のない蝶の愛好家や昆虫愛好家の方々が「悪質な蝶マニア・昆虫マニア」などと呼ばれ、後ろ指を指されて肩身の狭い思いをしなくてはならなくなる。更に、「採集=悪いこと、放蝶=良いこと」といった考えが世に広く知れ渡り、ギフチョウやオオムラサキなどの放蝶やホタルの幼虫などの放流がしばしマスコミに美談として報道され、ますます採集者への偏見が見受けられる。(蝶や昆虫に限ったことではないのだが・・・・・)悪質な蝶マニアと呼ばれる卵から幼虫から食草から山菜から根こそぎ持って帰る人や、放虫ゲリラと呼ばれる生態系を無視した人も蝶の愛好家や昆虫愛好家の中にいることは事実であるが、これはほんのごく一部である。また、一部の馬鹿な蝶の愛好家や昆虫愛好家だけではなく、在来種の保護・絶滅危惧種の保護であるということで、ある特定の場所に数多くの在来種一種のみを放蝶・放虫する一部の馬鹿な自然愛好家、自然保護団体などがいることは、生態系と生物多様性を考えたとき、他の生物(特定の一種のみで生態系は成り立っていない。)に多からず影響を及ぼす。(同種あるいは、他種生物との食草等をめぐる競合など→食草などの絶滅→他の域からの食草を移植・他の域の生物を移入=自然保護・絶滅危惧種の保護・絶滅種の復活→人間の自己満足・思い上り→自然環境と生態系の破壊・生物多様性の崩壊→自然破壊=人類の滅亡)
 ある限られた地域の環境の中では、生息できる生物の数が決まっていて、無闇に特定の一種(ギフチョウやオオムラサキなど絶滅危惧種)を放蝶・放虫することは生態系の秩序を乱す破壊行為に過ぎないのである。(悪質な蝶マニア・昆虫マニアとなんら変わりない。)
 在来種(絶滅危惧種)の保護で最も大事なことは、環境を守り保全し絶滅危惧種(辛うじて生き残った種)が自然発生的に繁殖し個体数が増えることが望ましいのだ。環境の保護や保全すらろくにせず、絶滅危惧種だからと勝手な放蝶や放虫・魚類の放流・植物の植栽などは行わないことである。また、絶滅種の復活などといって、他の地域の蝶を放蝶したり、昆虫を放虫したり、他の地域の植物を植栽したりすることは、絶滅種の復活ではないのである。絶滅してしまった種を復活することなどできないのであり、人間の思い上りである。見た目上は絶滅種を復活できたように見えるが、いちど絶滅してしまった地域亜種群を復活させることなどできない。
 自然保護を考えるとき、絶滅危惧種を絶滅させないよう環境を保全し、自然発生的に繁殖し、個体数が増える環境を創ることこそが、真の自然保護いえるだろう。そして、人間も自然界の一生物であるに過ぎないこと、自然界いから多くの恩恵を受けていること、科学技術がいかに進歩・発展しようとも、それらは自然界の摂理と原理の発見とその利用に過ぎないこと知ることである。そして、これ以上、生態系が乱れ、環境が破壊され、人類が自らの手で滅亡の扉を開けることのないように願うのである。



蝶の図鑑に収録している蝶の一覧

環境省 自然環境局 外来生物法

 

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